SUPER PRO

Interview with HIDETOSHI SAIGA

TONI&GUY JAPAN
雑賀英敏
Hidetoshi Saiga
@hsaiga
—— 今回の「SUPER BIDO」のテーマは「celebration」ですが、どんなイメージで作品を作られたのでしょうか。

今回はモデル自身の素材の美しさ──True Beautyをcelebrateしたいなと考えました。
というのも、本来は「未来に向けて」「明るいイメージでカラフルに」と考えていたのですが、撮影前日にモデルのEMMさんがブッキングできたので、急遽「classic beautyを目指そう」というふうにガラッと方向転換したんです。
レスリーとは「クラシックなポートレートの美しさや、いつの時代に見ても色褪せない美を出したいよね」と話していました。ですから「自然な美しさ」を意識しています。
僕は作り込むのもとても好きですが、今回は、いかに加工せずシンプルに素材をきれいに見せられるか。もっとも難しい、究極のチャレンジでもあるのですが、その方向に変更するというオファーが1日前に来ました(笑)。
レスリーとの仕事ではこういう変更もときどきありますが、これは海外の現場に近いんですよね。とにかく結果がすべてなので、いちばんいい結果を出すためには1分前でも方向転換するのが海外の現場です。僕らは自分たちのアイデアを持ちつつ、クリエイターのリーダーであるレスリーが見えている画、イメージ、コンセプトをのぞきに行く。
今回は「ポートレートに近いようなクラシック」というレスリーのイメージを事前に聞けていたので、そこに合うような、きれいで美しい感じを目指しました。

—— シンプルで自然な美しさを表すために、工夫されたことはどんなことですか。

レスリーは撮影時に風をよく使うので、ヘアも素材を生かしつつ、それをちょっと誇張する──髪の毛の健康さを表すためにエクステンションで髪の量を足そうと思ったんですが、当日まで本人に会っていなかったので、髪の色がわからなかったんですよね。わからないままエクステを作るのはとても難しいんですよ。1色だと絶対になじまないですし、外国人の髪は夏場などは毛先が焼けるので中間・毛先と色を分けましたが、その焼けている感じを表現するのにもっと沈んだ色なのかどうか、賭けでしたね。当日本人が来て「よかった、正解だった!」と。
限られた時間でいかに選択を間違えず、ギリギリまで準備できるかというのが今回のポイントだったと思います。モデルの髪がすごいファインヘアで細かったので、結果的に本人の髪よりエクステのほうが多くなったのですが、やはりボリュームがあるほうが、美しさや健康美につながったと思います。

—— 今回は、アレンジとしては6パターンをお作りいただきました。

そうですね。大きく分けると、ドライとウェット、ビッグとフラットという感じです。
最初のほうはビッグヘアシルエットで、後半2つはちょっとウェットヘア。艶あり、艶なしという感じですね。
アップスタイルのものは、セットに入ってからレスリーに「これがいい」と言われて作ったものです。
スタッフ一丸となって準備をしたので、僕というよりは本当にチーム力。今回は山野美容専門学校の卒業生も3名バックステージに入っているんですが、初陣がこの撮影というのは本当に運のいい子たちだと思います。これだけいいモデルを最初に見てしまったら、ダメな人間になっちゃいますよ。いきなり最高級の料理を食べたみたいになっちゃうので……(笑)。
また、今回のような直前での変更は日本の教育にはないので、若いスタッフにどう伝えたらいいのかと悩みました。でもこれこそがファッションの世界ではリアルですし、結局、その場のリーダーがいちばん見たいものはなんなのかが大事だと思うのです。結果、今回のような作品が撮れたら「ありがとうございました!」という気持ちになりますし。
ヤマノさんが、彼らのベンチマークにこういう環境をご用意してくださったので、すごくありがたく思っています。

—— こちらこそ、ありがとうございます。雑賀先生には「SUPER BIDO」のカレンダー制作時からご縁をいただいていたのですが、今回はじめて作品をご披露いただきました。「SUPER BIDO」ではどういうふうに作品を作り上げていこうと考えていらっしゃいましたか。

最初にご依頼を受けたときは、ヘアやクリエイション、美容道の限界にチャレンジして、楽しさを表現したいなと思っていました。見た人に「やってみたい!」と思ってもらえるような、憧れられるような撮影やクリエイションができれば、それがいちばんうれしいなと。
どんな作品を作ったとしても、「これかっこいい!」「キレイ!」「素敵!」と思ってもらえて、「こういうのやってみたいな」「楽しそうだな」となればいいなと思っていましたね。

—— 美容の楽しさに気づく第1歩を、今回の作品で拓いていただいたと思います。雑賀先生が美容の道に進まれたのは、お父様(「TONI&GUY」を世界的サロンに育てた美容家・雑賀健治さん)の影響が大きかったそうですが、進路を決めた具体的なエピソードはあるのでしょうか。

僕が高校生くらいの頃だと思うんですが、父親がヘアショーのプロモーションビデオみたいなものを作っていたんです。いま考えると予算もないはずなのに、それがJ-POPとかのビデオよりかっこよくて、感動したんですよね。
また、そのビデオを見ながら友人と楽しそうに話している父の姿を見て、こんなふうに楽しく仕事をする大人になれたらいいなと。そのときの父は、ちょうどいまの僕くらいの年齢だったと思うんですが、「美容師になったらこうなれるかな」と感じて目標ができたので、この道に進んだんでしょうね。
ショーを見に行ったときも本当にかっこよかったですし、しっかり生きていくためにもいい仕事だなと思っていましたから、それもひとつの理由だと思います。
ただ、父親からはずっと反対されていたんです。子どもの頃に「やれ!」と言われたことは全然やらなかったんですけど、「ダメ!」って言われると……うまく誘導された感じもあります。
結果的に同じ道に進んだあとは、父親もうれしそうだという噂は聞いていましたけど(笑)。でもたしかに、いま同じ立場になってみたら、「比べられるからやらないほうがいいよ」とは思います。

—— 自分の背中を見て憧れてくれたというのは、お父様もとてもうれしかったと思います。雑賀先生はロンドンでお生まれになったんですよね。

そうです。小学校1年生の終わりくらいに日本に帰ってきたんですが、ずっと向こうに戻りたいと思っていましたね。でも「ただロンドンに行きたいから美容師を選ぶのはダメ」とも言われていました。
だから、渡英することにためらいはなかったですが、やはり10年以上英語を使っていなかったので、行ったときは忘れていましたね。地理的な面でも怪しかったです。かろうじて、最寄り駅から住んでいた家までは歩けましたけど。でも、たとえばお菓子を食べたら、当時のことを「あっ!」って思い出す。味覚ってすごいなと思いました。

—— ロンドンではいろいろな選択肢があったと思うのですが、TONI&GUYに入社されたのはなぜですか。

どうせやるなら父親と同じ会社、同じ流派でやりたいなと思っていましたし、そもそもかっこいいと思っていましたから。うちのブランドが、かっこいいのピークに入っていくときに入社したので、店舗などもどんどん増えていましたし、憧れみたいなものがありましたね。
なので、ほかはあまり考えていませんでした。ただ、サスーンのカットスクールにも行きたいと言ったら、「何を言っているんだ!」って怒られましたね。父親は行っていたのに(笑)。その次の週、会社の面談が決まっていました。

—— 入社後、TONI&GUYのリージェントストリート店でアートディレクターをされながら、ロンドンアカデミーでアカデミーマネージャーとして教育にも携わっていらっしゃいました。具体的にはどういうお仕事をされていたのですか。

いろいろな国からTONI&GUYの最新スタイルを習いに来ていましたので、スタッフのトレーニングから、クリエイティブのカット・カラーのコースなど、アカデミーでもスクールでも、さまざまな教育に携わりました。
同時にショーのステージにも立っていたのですが、僕がはじめてステージに上がったとき、修学旅行でヤマノの学生さんがロンドンに来ていて、ショーをお見せしたんです。これも縁ですね。

—— ショーについては先ほども少しおうかがいしましたが、教育の現場でもたくさんの国の人たちと関わってこられて、日本と海外との違いに気づかれたことはありますか。

海外はやっぱり、結果がいちばん大事。どんなに途中がよくても、仕上げや結果が最優先で、パワープレイが多いようなところがある。
日本は、途中の細かいことで気を遣うことが多いです。プロセスはかなりしっかりしているけれど、海外のほうが結果にかける労力がちょっと多めじゃないかなと思います。
逆の言い方をすると、海外は途中が雑なことが多い。日本はとにかく丁寧で、集中しなければいけない時間が長い気がしますね。
メリハリがあるのは外国で、急にスイッチが入るんですよ。それについていくのは大変かなと思います。日本は段取りどおりきっちり、みんながわかるようにという部分が強みだと思うし、団体でやる場合は日本のほうが強いかな。
あとは、ひとつひとつの作業へのプライドだったり、ものづくりに対してのリスペクト感は、日本にいていいなと思うこと。美容で言えば、絶対的に上手い人が多いですよね。でも仕上げが上手い人が多いのは、やっぱり海外かなと思います。

—— いま世界のトップレベルで大活躍している日本人はあまり多くないように感じるのですが、そういうところに原因があるのでしょうか。

それもあるかもしれないし、そもそもトップオブトップってあんまりいないですよね。でも、中間の上とか、上の下ぐらいには、いい日本人がゴロゴロいる。だから、スーパースターのやばいレベルの美容師はあまりいないと思いますが、その下の層にはゴロゴロいるので、日本人というブランドには安心感があります。
また、日本には掃除をする文化があるけれど、イギリスに行くと小学校でも学校では掃除をしない。だからアカデミーで、受講している人に「なんで僕らが掃除しなきゃいけないの? お金を払っているのに」と言われたことがあります。でも逆に僕は「なんで僕が講師なのに掃除しなきゃなんないんだよ」って。それでいろいろと考えて、資格取得にあたって「お互いに思い合って動く」というチームワークのカテゴリーがあるんですが、そこに掃除を要素として入れたんです。ローテーションを作って、みんなが平等になるように、毎日掃除をする場所を変える。これはいまだに続いていますね。

—— 長年教育に携わっていらっしゃいましたが、美容を目指す人たちにがんばって欲しいことはなんですか。

まずは、「美容」ということを最優先事項にして欲しいですよね。美容師になってからも、美容室に入ったりいろいろな道がありますが、技術の世界なので、上手な人やライバルがたくさんいるから、競争に負けないように。
最初の3年は、とにかく美容を中心に生きて欲しいなと思います。そういう人たちにはチャンスが回ってきますから、スピーディーにグイグイ次のステージに行けるようになります。
そして、楽しんで欲しいですよね。思いつめてしまったときは、なんでこの道を目指したのか、なんのためにやっているのかということを思い出してもらえれば。結局、やるという選択をするのは本人なので、選んだからにはもっとよくなるために、美容に時間を費やして欲しいです。費やした分は必ず自分のためになると思いますし、10年できたら必ず一人前になっていますから。
若いうちは、「明日には上手になっている」とか「いきなり明日売れたい」というふうに思って凹んじゃう、というパターンがあるのですが、そういう子に限ってやっていないんですよね。
可能な限り美容に時間を投資していたら、必ず上手くなるし、お金は後からついてきます。いまはSNSなどもあるので、ボンとスピードアップできるし、「売れたい、有名になりたいならやりましょう」と。

—— ありがとうございます。最後に、雑賀先生ご自身がこれから叶えたい夢や今後の展望などがあれば、おうかがいできますか。

教育に関しては、少しでも楽しく早く夢を叶えさせられるコーチ的な存在になれたらいいなと思っています。それが技術教育なのか、マインド教育なのか……でも、自分自身ももっとブラッシュアップして、売れるような人たちにたくさん携われたらうれしいです。
世界を目指す人が増えたらいいなと思いますし、美容の世界がもっとよくなるような仕組みのアップデートもして、そういう人たちに貢献したいですね。僕はイギリスでいい経験をしたので、日本でもそういう立場になっていけたらいいなと。
あとは、少しでも多くいい作品を残していきたいですし、サロンのほうも、スタッフにはいろいろなキャリアパスがありますから、フランチャイズなどの支援ももっともっとやっていきたいですし、生涯ずっと現役で美容師をやっていけるような環境を組織として作りたい。一緒に働いてきた人がいなくなる理由に、僕がその人たちの夢を叶えられなかったという面がありますから。
美容師にもいろいろな選択肢があって、求めているものがないと離れてしまう。だから、いまいる場所は自分と方向性が違うと思ったときに「これなら大丈夫だよね」と提示してあげられるようにしたいんです。
美容自体、トレンドも薬剤も常に変わっていきますから、勉強し続けなきゃいけない。そういうのが嫌だと第一線の地域では難しいと思うけれど、違う新しい働き方もある。将来的には、そういう希望も叶えていきたいんですよね。20歳から始めて60歳過ぎまでの40数年、毎日表参道で美容師をやれるかと言ったら、僕はちょっと自信ないですもん。そういうものを求めている方にはそちらに行っていただいて、あとは個人でお客さんをお迎えするとか。
理想と現実が離れていくスタッフも、辞めていってしまうんですよね。「こういうふうにやりたいけど、自分はこのレベルにしか届いていない」「じゃあレベルが届いているところに行こう」となる。プロ野球でも全員が3割バッターにはなれないのと同じです。
これは教育に関することですが、いかに早くある程度のレベルに持っていけるか。1割しか打てない人が2割を出せるようになるだけで、世界が全然違ってきます。そういうことができるように、教育をもっと充実させていきたいです。
あとは、常に変わり続けたいですし、その姿を見せていきたい。ずっと一緒だとなかなか進化しなくなるので、変わり続ける組織にしたいなとは思っています。

—— では、今後ご自身のなかで叶えたいことややっていきたいこと、将来の展望などはありますか。

いまは、教育の事業ができるメンバーを作って、チームをもうちょっと強化していければ、と。それがグループの底上げというか、強化につながればいいなと思っています。

あとは、僕自身も作品撮りなどをしていますが、技術を教えている人たちのなかから、JHAなどでもしっかり結果を出せるようにしたいです。業界のなかではまだお店の名前だけが有名という感じなので、「誰々がいるEARTH」と言われるようなスターが、もうちょっと出てきてくれるといいなと思っています。僕ももうちょっとがんばらないと、と思っていますが。

—— 教育のこと、ご自身の技術のレベルアップ、さらにサロン経営のことなど、多岐にわたって夢を持っていらっしゃる。これから美容業界に入る方にとっては、雑賀先生のお姿のどこかに自分の理想像があると思います。今日は、長時間の撮影と素晴らしいお話をありがとうございました。

「SUPER BIDO」は、初代山野愛子が提唱した「美道5大原則」の理念にのっとり、美容の理論と実践を通して、変わりゆく多様な文化の足跡を残すべく立ち上げたプロジェクトです。世界で活躍するアーティスト、山野学苑OBや在校生の作品のほか、同学苑で行っているさまざまな取り組みをご紹介しています。また、各界で輝くさまざまな人々を「美容」というキーワードで繋ぎ、盛り立てていくことで、美容業界の発展に貢献することを目的としております。

検索

Copyright © 2020 – 2022 Super BIDO All Rights Reserved. Site Designed by Jetset Inc. and crft