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Interview with Tomoaki Makino

槙野智章
Tomoaki Makino

これまでサッカーをやってきて、いいことばかりではなく、悲しいことや悔しいこともたくさん経験してきましたし、いろいろな国にも行きました。ボールひとつでいろいろな方との出会いやストーリーがあって、日常生活では味わえない興奮があります。サッカーをとおしてひとりの人間として自立できたかなと思っています。

爽やかな笑顔で快活にお話しくださったのは、今シーズンからヴィッセル神戸に移籍したプロサッカー選手の槙野智章選手。 2006年に地元チーム・サンフレッチェ広島に入団、悲願のJ1昇格に貢献したのち、2010年にはベストイレブンに選出され、フェアプレー賞も受賞されました。 その後ドイツ・ブンデスリーガの1.FCケルンへの移籍を経て、浦和レッズに加入。 チームを8度の優勝に導き、看板選手としてチームからもファンからも愛されてきました。 プロ選手として活躍されるまでには、さまざまな制約もおありだったのではないでしょうか。

そうですね、ほとんど学校にも行けなかったですし、修学旅行など多くの行事を犠牲にしてサッカーにのめり込んできたなかで、いまがあると思っています。僕ががむしゃらに夢を追いかけて来られたのは、小学生のとき、地元サンフレッチェ広島に在籍していた森保一選手(現日本代表監督)からかけられた『このままがんばったらプロになれるよ』というひと言のおかげなんです。だからこそいまの自分も、ひとつひとつの発言や行動で子どもたちに夢を持つきっかけを与えられたらいいなと思っています。でも、当時のことを森保さんに話したら『そんなの覚えてないよ』って言われてしまいましたけど(笑)。

時折、笑いを交えて場を盛り上げながらお話しくださる槙野選手ですが、プロスポーツ選手は「なる」こと以上に「続ける」こと、そして「結果を出すこと」のほうが大変と言われています。 11人の選手がそれぞれの役割を果たさなければならない競技だからこそ、チームメイトの性格を把握し、それそれの立場を確かめることが大事なのかもしれません。 槙野選手は、これまで多くの選手を見て、感じて来たからこそチームメイトやチーム全体に対しても気を遣う部分があるとおっしゃいます。

ピッチに立つのは11人ですが、チームには選手が30人くらいいます。そのほかコーチングスタッフなどを含めると、全体で100人くらいいるんです。僕はチームは生き物だと思っていますが、ひとりの言動でガラッと空気や流れが変わる集団なんですね。だからこそ、投げかける言葉やタイミングには気を遣いますし、周りを見ながら誰が言うべき発言かも考えます。

いいチーム、強いチームというのは、全員が同じ目標を持って、同じ温度感で日々を過ごしているもの。ですから、監督やコーチングスタッフも、試合に出ている選手たちだけでなく、出ていない選手がいまどういう状況で、どんなふうに日々を過ごし、試合に向かっているのかを把握しなければいけませんし、僕のようなベテランの選手は若手や中堅の選手の気持ちや立ち位置を考え、観察しながら接するようにしています。これは若手の頃にはわからなかったことですね。

これまで日本代表選手として、またチームを率いるスター選手として、プレッシャーのかかる場面もたくさん経験して来られました。 緊張や責任と向き合うとき、どんなふうに乗り越えていらしたのでしょうか。

僕は試合前、半分パフォーマンスでもあるのですが(笑)、ピッチのなかで掌に向かって試合にかける想いや、つらいトレーニングをしてきたという自信を自分に問いかけて、常に『自分はできる。勝てる。強い!』と暗示をかけています。
正直、誰にだって不安はあるんですが、僕はよりポジティブに自分に問いかけるようなやり方で試合に臨んでいます。
一方で、わざと自分を不安にして、気持ちを掻き乱して試合に入る選手もいますから、どのやり方が正解かはわからないですね。
ただ、これまでたくさんの選手を見てきたなかでは、自分に矢印を向けて考えている選手のほうが、物事を客観的に見てひとつひとつクリアしているなという印象があります。

常に集団を考えたうえで行動し、ご自身の内面と語り合っているからこそ、大事な場面で強さを発揮する。 そんな”頼れる大人”の部分が槙野選手をより輝かせているのでしょう。 その大人っぽさはピッチを離れたところでも見られるかっこよさにもつながっています。 2018年には「生き方をスタイリングで変えていく」というコンセプトでオリジナルコスメブランド「HALTEN」を立ち上げましたが、美容など外見的な面で意識されていることはありますか。

まずは清潔感を保つことですね。
僕らはピッチから離れたところでも、発言や持ち物、洋服などでも夢を与えられるし、真似されるような立場になっていかないといけないと個人的には思っています。
HALTENを立ち上げたのは、2018年のロシアW杯のとき、イタリアの男性誌『GQ』でベストヘアカット5人に選ばれたのがきっかけです。
それまでもファッションやヘアについての質問が多かったですし、サッカー界からはこういったアイテムが生まれていなかったので。
最初はヘアに関するアイテムがメインでしたが、僕らは常日頃太陽の下にいるので、女性並みに肌に対してのケアをしているんですよ。
そういう経験から、スキンケア製品も開発しました。
女性も使えるユニセックスなアイテムなので、たくさんの方に使っていただきたいなと思っています。
僕はサッカー選手なので、本業でしっかり結果と数字を出しながら、みなさんに求められる商品をこれからも出していきたいです。

サッカー選手としてのピッチ上での生き方、ピッチを離れても夢を与えるプロスポーツプレイヤーとしての生き方、さらには人としての生き方など、槙野選手からはたくさんの美学が感じられます。 そしてそれらのすべてが、ご自身の経験に裏打ちされたものだからこそ、私たちも応援したくなってしまうのでしょう。 では、槙野選手にとって、生きていくうえで指針としている「美道」とはどんなことでしょうか。

難しい質問ですね! でも、僕は挨拶がすごく重要だと思っています。
選手としても人としても、第一印象は挨拶で70%が決まると思っているんです。
僕は高校時代の3年間で、挨拶の仕方を教えてもらったと言っても過言ではないんですよ。
恩師から、『サッカーなんてどうでもいい。挨拶でその人の器の大きさ、人間の大きさが変わってくるので、100メートル離れていようが挨拶しろ!』と教わってきましたから。
ですからいまも、たとえばマンション内ですれ違う人には必ず挨拶をするようにしていますし、街中で、知らない人にも挨拶したりします。
それくらい僕にとって挨拶は大事なことなんです。

たしかに槙野選手は、取材が始まる前も大きな声でご挨拶をいただき、場の空気を一気に和やかにしてくださいました。 相手が誰でも、どんなときでも笑顔で快活にご挨拶されることが、槙野選手の人気の理由なのでしょう。 いつも周りに人が集まってきて、盛り立ててくれる「人としての厚み」は、高校時代に培われた「挨拶」という美道の賜物かもしれません。
※本記事は2022年9月時点でのインタビューをもとに作成しております。 槙野智章さんは2022年12月24日に現役引退を電撃発表され、今後は監督を目指しての活動を予定されています。

「SUPER BIDO」は、初代山野愛子が提唱した「美道5大原則」の理念にのっとり、美容の理論と実践を通して、変わりゆく多様な文化の足跡を残すべく立ち上げたプロジェクトです。世界で活躍するアーティスト、山野学苑OBや在校生の作品のほか、同学苑で行っているさまざまな取り組みをご紹介しています。また、各界で輝くさまざまな人々を「美容」というキーワードで繋ぎ、盛り立てていくことで、美容業界の発展に貢献することを目的としております。

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