SUPER GRADUATES

Mystery

EARTH 所属
津田圭太郎
Keitaroh Tsuda
@keitaroh4hair
—— 今回の「SUPER BIDO」のテーマは「celebration」。”祝福”という意味から連想して、ルネサンス期のキリスト教絵画のようなイメージを持たれたそうですね。

最初に「celebration」とうかがったとき、いろいろな方が同じテーマでやるならば、そのまま”お祝い”という華やかなイメージのものが多くなるのかなと思ったのです。そこで、”祝福”という意味からシンプルに連想していったら、なんとなくキリスト教の絵画のイメージが浮かんだので、そこからいろいろ調べていきました。

僕もそんなに詳しくないのですが、「マグダラのマリア」は美容師や髪の毛にも精通しているということだったので、モチーフにしたら面白いなと思ったのです。お祝いムードも出ますが、悲壮感のあるキャラクターでもあるので、「celebration」というテーマそのままというよりは、”裏と表”を表せるのではないかという印象がありました。哀愁のある感じを出したいなという気持ちもちょっとあったので、それを含めてモチーフとしていいかなと。

また、エピソード的には、復活祭にも関わっているという記述があったので、その辺からヘアやメイクのインスピレーションを受けられればいいかなというところで考えました。でも、ある程度テーマを持っていって、あとはその場のレスリーさんの雰囲気でやるんだろうなと思っていたので、あくまで仮テーマというか、裏テーマ的な感じです。

僕は、テーマは必ず決めるんですけど、あまりそれをイメージし過ぎちゃうと、そこに縛られるというか、プロモーション作品みたいになってしまうので、なるべくそうならないように。最初の発想のきっかけくらいのイメージでした。

—— 今回は3パターンをお作りいただいたのですが、こだわった点はどういったところですか。

ご用意いただいた衣装がわりと個性的というか、形のはっきりしているものだったので、画的にケンカし過ぎない程度に、ヘアがなるべく主役になるようなポイントは残したいなと思っていました。はじめはカラーももう少しさまざまな色を入れることを考えたのですが、どちらかというとデザインで見せたいなという気持ちもあったので、なるべく色はシンプルに。事前にモデルさんのインスタグラムを拝見していたので、地毛をちょっと使ってもいいかなと思って、地毛+地毛とミックスできるようなもので、当日考えようかなという感じでした。ただ、ロングはキープしたかったので、ロングヘアでなにか遊びが欲しいなと思っていましたね。今回、フルウィッグとエクステの両方を使い、地毛もポイントで使ってみましたが、画のなかで「負けないけれど、ケンカをしないバランス」を考えようとは思っていました。

—— ひとつひとつの詳細をおうかがいできますか。

白いドレスのものと、赤いスカートを着ているものはフルウィッグですね。横の一部だけが地毛で、後ろの毛もエクステです。はじめてのモデルさんだったので、色なども難しかったですね。そもそもウィッグも1色だと本当になじまなくなってしまいますから、エクステもウィッグも、ルーツにけっこう暗い色を持ってきて、実際の髪色が暗いほうに近くても、明るいほうに近くてもなじむように、あらかじめ用意しておこうと思っていました。ベージュ系のちょっと暗めから明るめの流れをウィッグのなかに置いておけば、なにかしらなじむだろうと思って。あとは、現場で微調整できるようにカラー剤なども一応持ってきていたんですけど、あまり必要なかったです。

—— 表紙にも使われたメイン使用の作品は衣装の華やかさもあって、同じロングでもガラッとイメージが変わりましたね。

そうですね。じつは何パターンを撮るかということもわからずに現場に来たので、一応いろいろ準備はしていたんですけど(笑)、これも急遽考えたものです。先にウィッグのパターンを2つ撮ったのですが、デザインにワンポイントあるウィッグだったので、衣装だけ変えてもあまり変化がないかなと思って、急遽地毛を使いました。これは地毛に後ろだけウェーブのエクステをつけています。このエクステも、最初のウィッグにくっつけちゃおうかなと思っていろいろ用意していたけれど、結局使わなかったもののひとつです。これなら色もなじむし、なにかしら遊べるかなと思って使いました。モデルさんもテンションが上がっていましたし、明るい子ですごくよかったです。

—— 今回はじめてご参加いただきましたが、「SUPER BIDO」にはどのような感想をお持ちでいらっしゃいましたか。

やっぱりレスリーさんの世界観が一番に出ているので、作り手としては、どんなテーマで投げてもある程度形に仕上げてくれるだろうなという安心感はありました。だから、事前の打ち合わせは最小限のものでしたけれど、そんなに不安はなかったんです。

あとは、作っている方も、たとえば学生さんは技術的にキャリアのないところで、発想力とかイメージで作っている。一方で、雑賀先生もそうですけれど、ベテランの方たちは、さすがだなという質感の作り方がある。いろいろなパターンがあって、でもそれぞれの作品の色がちゃんと強く出ていますよね。僕は写真を撮らないのですが、そういうところで、作品作りとしてはすごく勉強になるなと思って見ていました。

—— 津田先生は、どんなふうにご自身の色を出していこうと意識されていましたか。

僕が個人的に撮る作品などでは、今回のように背の高い外国人モデルを使うこともないですし、衣裳もあまり強すぎないもので押さえるだけ押さえて、ヘアとメイクを強調するというパターンが多いんです。ですから逆に今回は、モデルやカメラマンに僕が合わせていくというようなパワーバランスはちょっと意識しましたね。

全部100%決めていくようなものではなく、当日いろいろ変更できるようにと思っていたので、そういう意味では綿密に考えたというよりは、いろいろ動ける準備をして臨んだつもりです。

セッションをするつもりで、こちらのやりたいことに対して向こうの提案があればいいし、お互いにそういうことができればいいなと思っていました。

—— では、ここからは作品以外のことをうかがいます。なぜ美容の道に進まれたのでしょうか。

僕が美容師を目指したのは、まさにカリスマブームのとき。「ドラマやテレビ番組を見て」とか、「誰々さんに憧れて」というような直接的なものはなかったのですが、世間の空気的には影響があったと思います。もともと、技術職かつ接客業というジャンルで考えた結果が、美容師か板前だったんです。そのうえで、当時の世間の流れ的に、美容師という選択になったのかなという感じです。ですから、最初から強いこだわりがあって、どうしても美容師になりたいというわけではなかったと思うんですよね。

ただ、当時は注目されている職業だったからという一方で、逆にそういう華やかさに惹かれて「こうなりたい!」という願望から入ったわけではないので、現場に入ったり仕事になっても、冷静に、客観的に気持ちの処理ができたのはあると思います。職業に対する理想が高いと、どうしても「こんなはずじゃなかった」という気持ちが出てくるじゃないですか。当時は周りにもそういう思いを抱えている人が多かったのですが、僕自身はそういうのはあまりなかったですね。

—— 山野美容専門学校の通信科を卒業されていますが、ここを選ばれた理由と、在籍時の思い出をお聞かせください。

やはり名前は知っていたので、知っているところに行きたいなという感じでしょうね。有名で大きなところというイメージがあったので、安心かなと思っていました。最初はヘアメイクの学校に1年間通ったんですが、そこでは免許が取れなかったんですよ。それで、ダブルスクールで通信科に通い始めて、途中からは美容室でアルバイトをしながら。多くはなかったですが、周りにもそういう人がいました。なので、僕はあまり学校にくることはなかったんですよ。ただ、学食の思い出だけあります(笑)。

—— 当時は学食があったんですね! では今回のように、卒業後に母校とつながって来校されるご経験のほうが多かったのでしょうか。

そうですね、何年か前には学校側からオファーをいただいて、定期的に学生さん向けの実技セミナーなどもやらせてもらいました。対象は夜間コースの子たちでしたが、そのときにつながった学生さんのなかで、うちのグループに入ってくれた子もいましたし、そうではない子も髪の毛を切りに来てくれたりとか、アドバイスをさせてもらったりしました。

—— では、ご卒業されてから、いまに至るまでのご経歴をおうかがいできますでしょうか。

僕はずっと1社に20年勤めているんです。途中でフランチャイズというか、店舗のオーナーをやっていた時期もあったのですが、いまはグループと専属契約をしているフリーランスとしてやっています。個人事業主という形ですね。現在は、サロンで現場の仕事をしながら、全国に店舗があるのでオンラインを中心に、オフラインも含めた技術セミナー・技術教育をメインでやらせてもらっています。現場で育成する担当責任者はそれぞれの店舗にいるので、直に面倒を見るというよりは、自社内で行っているオンラインサロンのようなもので、技術的なものの発信ですね。毎週ライブ配信でセミナーをやったり、技術や理論の講習をしたり、グループ内で活躍しているスタイリストに対談形式でインタビューをさせてもらったりしています。この数年はコロナ禍でセミナーなどもしづらい時期があったので、社内のオンライン教育を僕が提案し、事業としてやらせてもらうということで、フリーランス契約にしたという経緯です。

—— それは美容師としての新しい働き方ですし、貴社は新しいことを取り入れる会社なんですね。

もともと外部のオンラインサロンなどに入っているスタッフは多いんです。僕自身もそういうオンラインサロンに入っていますし、オンライン・オフラインにかかわらずさまざまなセミナーを体験してみた結果、しっくりくるものとこないものがありました。ですから、せっかく大きなグループ会社なので、最低限の義務教育の部分であっても、もう少し濃いものがあるといいなと思ったのが、こういった活動を始めたきっかけです。受講者をお客さんとして見るようなものではなく、あくまで自社教育のなかでなにか発信できるものがあればいいのではないかと。それならば、わざわざ外部のセミナーなどを受けなくてもいいですし、自社のものだけを見てくれるスタッフもいるので、そこを強化していければお互いにwin-winじゃないかなというところでやり始めました。

たとえば外部のサロンやセミナーですと、技術的なものや薬剤理論などの勉強もできるのですが、学んだことを現場に落とし込むときに、そこで売られている薬剤を仕入れないとできない、といったこともあるわけです。ですから、僕が得たいろいろな情報をグループ向けに噛み砕いて、オリジナルに解釈したものを伝えてあげれば理解しやすいし、実践しやすいんじゃないかなと思ったんです。0から外部セミナーで学んでしまうと、もうそれしかなくなってしまって、「それじゃなきゃダメ」という発想になってしまう。でも「ということはこれでいいよね」「これだったら明日からでも、いまからでもできるよね」と思ってもらえるようなことを意識して発信しています。

—— いま現在、貴社は全国に何店舗、何人くらいのスタッフがいらっしゃるのですか。

だいたい250店舗くらいで、スタッフは3,000人くらいだと思います。店舗数もスタッフ数も多いので、1店舗ごとに講習をしていたら、時間が足りなくなってしまうんですよ。

また、子どもがいてパートで働いているスタッフもいますので、そういう人はせっかく講習会の機会があっても、なかなか出て来られない。となると、人も集まりづらくなってしまいますが、オンライン講習であれば家でも見られます。ですから、今後は会社としても、そういった発信ができる人を育てていきたいというのもあると思います。

いつの時代も、実力があれば外に出ていくというのがセオリーだと思うのですが、こういった発信者としてのポジションも、先を目指すうえでのひとつの道かなと思うんです。自分のお店を持つとか、フランチャイズで任されるというもの以外の、目指す道があってもいいのかなと思うので。

—— 津田先生ご自身は、最近はそういった発信のお仕事が多いようですが、ふだんから大切にされていることはありますか。

いろいろ教えると言っても、現場でお客さまに通用することじゃないとリアリティーがないんです。だから、まずは自分がしっかりお客さまに認めてもらっていることを発信できるように、どちらも両立することは考えています。

学んだことをただ伝えるのは簡単ですが、それをどういうふうに現場で使ってお客さまに評価してもらっているかは、自分で体験しながら発信していくしかないので、それは意識しています。

—— では、今後ご自身のなかで叶えたいことややっていきたいこと、将来の展望などはありますか。

いまは、教育の事業ができるメンバーを作って、チームをもうちょっと強化していければ、と。それがグループの底上げというか、強化につながればいいなと思っています。

あとは、僕自身も作品撮りなどをしていますが、技術を教えている人たちのなかから、JHAなどでもしっかり結果を出せるようにしたいです。業界のなかではまだお店の名前だけが有名という感じなので、「誰々がいるEARTH」と言われるようなスターが、もうちょっと出てきてくれるといいなと思っています。僕ももうちょっとがんばらないと、と思っていますが。

—— 最後に、これから美容業界を目指そうと思っている若い人たちに、アドバイスをいただけますか。

いまはたぶんどの業界でもそうですが、自分の器さえあれば、スマホひとつでいろいろな情報や高レベルの技術の勉強ができる状況になっています。ということは、意識があるかないかの差が、これからすごく広がってくると思うんですよね。

僕たちの仕事は、あくまで人に選ばれる仕事なので、その厳しさをちゃんと認識していたほうがいい。スマホでなんの情報を得て、どれだけの時間を学ぶことに投資しているか。そういう差が、きっと露骨に出てくると思うので。逆に言えば、SNSなどを中心に、置かれた環境にかかわらず、自分の好きなことややりたいデザイン、得意とするお客さまの層まで自己実現できる時代ということ。ですから、いままで以上に人との差もつくし、環境のせいにもできない状況になっています。そういう意味では、僕は以前より厳しい状況になっていると考えているんです。

でも業界的には、学生さんや若い人たちを守ろうという感じが強いと思うので、あまりそれに甘えないように、自分なりの軸を持たないと。最終的に理想とする美容師像になれるように、時間を惜しまないで欲しいですね。
どこに住んで、どこで美容師をしていようが、一目置かれる存在になったり、どこに行ってもお客さんが来てくれたりという、なりたい自分になれる環境はあると思うので。

—— 印象的な作品と、リアリティのあるフレッシュなお話をありがとうございました。

「SUPER BIDO」は、初代山野愛子が提唱した「美道5大原則」の理念にのっとり、美容の理論と実践を通して、変わりゆく多様な文化の足跡を残すべく立ち上げたプロジェクトです。世界で活躍するアーティスト、山野学苑OBや在校生の作品のほか、同学苑で行っているさまざまな取り組みをご紹介しています。また、各界で輝くさまざまな人々を「美容」というキーワードで繋ぎ、盛り立てていくことで、美容業界の発展に貢献することを目的としております。

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