HIGH FASHION PRO
Interview with SAILA KUNIKIDA
Saila Kunikida
今回の撮影を振り返っての感想をおうかがいできますか。
レスリーと撮影前に話していたのですが、ファッション業界ではクライアントなども入ってくるので、自分がやりたいことをやれる機会があまりないんですよね。今回はヘアさんもメイクさんもみんながやりたいことができて、うれしかったと思います。
ありがとうございます。今回はフェミニンとマスキュリンのふたつのパターンで複数の撮影をさせていただきましたが、テーマについてレスリーさんとはどういったお話をされましたか。
まず、男性らしさ、女性らしさとはどういうことなのか。私は、実はどちらも女性らしいということでもあると思うんですよね。ですから「フェミニン」「マスキュリン」という言葉が、いまの時代はかなり変わってきていると思うのです。
女性らしさとは、自分で選ぶことではないでしょうか。
ご略歴についてうかがいます。パリでお育ちになられて、日本でモデル活動をしようと思われたきっかけはあるのでしょうか。
本当にたまたまなんです。それまではずっとヨーロッパにいましたが、「私はどういう国、どういうカルチャーから来ているのか」ということを知りたくて、19歳か20歳のときに日本に来たんです。そのときに母が、私に隠れて私の写真をモデルとしてキャスティングに出していたんですね。
そういうチャンスがあったので、「ちょっと日本に住もうかな」という感覚で3か月の滞在だったはずが、もう7年たってしまいました(笑)。
私のシーンは日本人で母も日本人ですから、日本にものすごい愛があるし、とても勉強になったことも多いです。日本が私の頭で、ヨーロッパが私のハートです。
私は両方を見てきましたので、もっと若い子たちに世界を見てもらいたいんですよね。それは、ものすごい大事だと思います。まず楽しいということがありますが、いろいろな人に会えて勉強にもなるし自信ももらえます。また、クリエイティブの世界では、インスピレーションをものすごいもらうので。
世界を見るのは、人によっては怖いかもしれませんが、やってみるとそんなに怖くないです。そして、英語が話せるようになるのはすごく大きいと思います。本当に世界も広がるし、誰とでも話せて、どこでも仕事ができますから。
「英語をしゃべれないから恥ずかしい」と思っている方もいると思いますが、通じるならそれでいいんです。恥ずかしいという考えを捨てて、人の目線をそこまで考えないことですね。ヨーロッパやアメリカでは、みんなそこまで考えていませんから。だから、自信持ってやってみてほしいです。
彩良さんはモデル以外にクリエイターなど裏方の仕事もされていますが、そういったことを始めるきっかけはあったのでしょうか。
コロナ禍になって時間ができて、自分がやりたいことをやってみようというタイミングになったので、お友だちとブレインストーミングなどをして会社を起こしました。
クリエイティブな事務所や会社は日本にも多いのですが、私はロンドン生まれパリ育ちで、母が日本人。そういった背景があるなかで感じていたのが、広告もファッションも、売り方がすごくエモーショナルなので、カルチャーがわからないと売れないんですよね。
日本のマーケットには独特なところもあって、どうしてもヨーロッパ人にはわからないこともあると思いますし、日本人もヨーロッパに対してわからないこともあると思う。そのふたつの世界に橋を作るイメージで始めました。
ですから、日本のためのコンテンツですが、ヨーロッパのブランドイメージを傷つけずに作っています。
日本にいらしてから、「ヨーロッパと違うな」という違和感を感じられたり、逆に「日本はここがいいな」と思われたところはありますか。
これは母から言われていたことですが、日本に来てからすごい人のことを考えるようになりました。
向こうで育つとIndividual(個人主義)というか、自分のことしか考えないようにしていないと潰されるという側面もあるのですが、日本はグループで動く国なので、人のことを考えないといけない。
ただ、それにはいいところもあれば、難しいところもあると思うんです。グループで考えると、誰もリスクを取りたくない。でもいまはすべてがクリエイティビティの時代なので、リスクを取らずにいたら、誰もクリエイティブになれません。
Conservative(保守的な考え)は素敵なことだと思いますが、ただルールを守るだけで、なぜそういうルールがあるのかをよくわかっていない方も多いと思うんです。でもフレンチの考え方だと、何か言われたときに「OK」とフォローする前に「なんでそういうことを言われているのか?」をまず自分で考える。そこが違いかなと思います。
また、日本はすごく平和ということもあり、素敵で便利で安心なのですが、それゆえに逆に外で起きていることにあまり興味を持っていないのが、ちょっと危ないかなと思っています。世界は全部つながってるので、国の距離が遠いからといってつながっていないわけではないんですよね。
この「SUPER BIDO」を立ち上げた山野学苑には、創設者である初代山野愛子先生が提唱した「美道」という考えがあります。彩良さんにとっての美道のような、人生の指針のようなものはありますか。
みんな10年、20年先のことを考えていて、大人としてはそれは大事なんですが、人生を毎日、明日がないつもりで生きること。言い方は暗いかもしれませんが、本当に、いつ死ぬかわからないから、まず考えすぎないこと。
それで、自分が気持ちよく生きていくこと。人の目線が重いのもわかりますが、生まれるときと死ぬときはひとりで、そのときがいちばん大事。人生をまっとうしたとき「人生、楽しかったか」という問いが出てくると思うから、自分が気持ちよく生きていくことですね。自分の人生にどのくらい時間が残っているかわからないし、どういう状態になるかもわからないですから。
最後に、彩良さんにとって理想とする人や、理想の生き方などはあるのでしょうか。
いや……実はいないんですよね。ただそれは、外からは「うらやましい」と思われる人でも、その人のプライベートの人生や心はわからないですから。
サクセスって、私にとっては心がピースフルに生きていくことなので、人生がつらくても、それを乗り越えていくこと。ずっとつらいわけでもないですし、明日もごはんはおいしいですからね。