小室哲哉 Tetsuya Komuro
1990年代、数々のミリオンセラーを生み出し、社会現象まで巻き起こした日本を代表するミュージックデザイナー・小室哲哉さん。
これまで膨大な数の楽曲を制作、提供、プロデュースされてきましたが、その創作の源とはどんなことなのでしょう。
「作りたいという欲求よりも、聴いている人が笑顔になったり涙を流したり、または鳥肌が立ったりとか、そういった反応が源ですね。創作は、たったひとりの頭のなかでの孤独な作業が基本なので、それに対するレスポンスです。ときにはそれが東京ドームでの5万人ということもありましたし、たったひとりのときもある。でも、基本は一緒です。今はLINEなどで作った曲を依頼主に送ったりもしますが、その人の反応が文字からでもわかるんですよね。本当にちょっとしたものを敏感に感じ取るというか。それは、友達づきあいや恋愛とも似ていると思います。些細なことでも『気分悪くするようなことを言っちゃったかな』とか、『すごくぐっときてくれているな』とか、親しければ親しいほどわかったりしますよね。
イソップ寓話の『北風と太陽』の話では、いくら風を吹かせても人はコートを脱いではくれません。誰かの感情を動かすことはそれと似ていて、無理に泣かせようとか、興奮させようとしても難しいと思うんです。音楽にもいろいろなジャンルの人がいて、シンガーソングライターの方など、誰かひとりに伝えたいメッセージを音楽で表現して、それを聴いた人が自分なりに解釈して受け取るという形の楽曲もある。でも、僕の場合は自分の声で伝えるという仕事ではないので、たとえば『WOW WAR TONIGHT 〜時には起こせよムーヴメント』という曲ならば、サラリーマンの気持ちを自分なりに解釈したり。僕には10代の子の気持ちも本当はわからないのですが、みんなが解釈して自分のものにしやすいようにと考えています。
そのためには歌詞も大事ですが、メロディや音も大事。その音が聴こえた瞬間に思い出とクロスオーバーするというか、音の響きだけでも、心に響くときもあるので。メロディライン、歌詞、音、そして演奏や歌というパフォーマンスのすべてのうち、何に引っかかるのかはわかりませんが、僕の仕事はそういうものだと思うんです。そして、聴いている人の、少なくとも3分間くらいの時間を独占できるという、すばらしい仕事だと思います」また、声を出すことが健康につながっていると感じますね。コロナによる『新しい生活様式』で、みなさんリモートの生活が増えていると思うんです。そのため、普段の生活で声を出す機会が減っているのではないでしょうか。メールやLINEでコミュニケーションは取っているのでしょうけれど、声を使っての会話はあまりしていないという方が多いように感じています。それが知らず識らずのうちにストレスになっているような気がするんですよね。私は歌を歌っているので、定期的にボーカルレッスンをしていましたが、舞台稽古で久しぶりに歌を歌わせていただいて『やっぱり歌ってすごくいいなあ』と改めて思いました。早くコロナが収束して、ライブやファッションショーなどができるようになるといいですよね」
ひとつひとつの言葉をじっくり考えながら静かに発言される小室さんからは、音楽にかける情熱がひしひしと伝わってきます。これまで名だたるアーティストをプロデュースされてきましたが、個々の才能や個性など、どういったところに注目されてお仕事をされてきたのでしょうか。
「世のなかにはスポーツ選手とコーチのようなリレーションシップがあって、それがうまくいくと結果が出るという例がたくさんありますが、基本はそれに近いのかもしれないと思いますね。まずはロイヤリティ──信頼がないと。あとはリスペクト。お互いがお互い尊敬し合うことだと思います。それにリフレクション。お互いに反射し合うということも。もっと基本的なことは、向いていなかったら『向いていない』と言ってあげること。可能性は本当に慎重に、いちばん最初の段階で選択をしてあげないと。それは美容と一緒かもしれません。『こうしたい』という希望に対して、『どう考えてもこちらのほうがフィットする』というものがあったら、しっかりと言ってあげることは大事です。お客さんを選べないという美容の世界と、選んでプロデュースするのとでは違うのかもしれませんが、最初を間違えると最後までうまくいきませんし、ゴールにたどり着かないかなと思います。でも、何度かお店に行くうちに、あれこれ希望を言わなくても、『この人はおまかせで、絶対フィットしたものにしてくれる』という信頼関係が生まれていることは多いですよね。そのためには、自己主張も必要。『私はこういうことが得意です』『こういうスタイルを持っています』と自分をプレゼンテーションし、自分のカラーを見せてあげることも大事と思います。お客さんもチョイスすることができるわけだから」