Issue.01

ただそこにある美

家族、自然、夢、希望………意識の外にある絆と輝き

河瀨直美
映画監督

レスリー・キー
写真家

山野愛子 ジェーン
山野学苑理事長

「特別養子縁組」によって新たに芽生える家族の美しい絆と、胸を揺さぶる葛藤を描く映画『朝が来る』(10月23日公開)。この制度によって実際に家族になった方々をレスリー・キー氏が撮影した作品「True Mothers」は、山野美容専門学校の在校生がヘアメイクを担当しました。このご縁を機に行われた、河瀨直美監督、写真家・レスリー・キー氏、山野学苑理事長・山野愛子ジェーンさんによる鼎談をお届けします。

Leslie Kee

このパワフルな女性ふたりをどうしても会わせたいと思っていました。それぞれ美容と映像を通して、素晴らしい日本、素晴らしい世界をこれから一緒に作っていこうということで、今日はサポートをさせていただきます。まずはこの『朝が来る』という映画について、私と直美さんは、この映画に出てくる子たちとバックグラウンドが近いのです。共感する気持ちがあるから、私は自然にこの作品を応援したいと思いました。ジェーンさんのおかげで山野美容専門学校の場所をお借りし、スタッフにサポートをしていただけることになって、14組の素晴らしい母たちに、彼女たちと子どもたちが一生忘れられない、残る作品ができました。今日の出会い、今日の体験を、おふたりにもお話しいただきたいと思います。

今日はありがとうございました。私は、自分自身が養子縁組をしてもらった子どもなので、本当の両親とは一緒に暮らしたことがないんです。でも、家族というのは作られていくものであり、繋がりというのは作っていくものなんだなと、自分の人生を通して実感してきました。今回、レスリーによってこの山野美容専門学校で撮影の機会が設けられ、このとき、この瞬間にしかない時間に、養親さんたちの子どもを通した愛を形にしたこと、彼らはこの体験を、たぶん一生の宝にするんじゃないかなと思っています。

河瀨直美

山野愛子ジェーン

ありがとうございます。私たちもレスリーを通して直美さんにもお会いできて、とってもうれしいです。私も、映画『朝が来る』や、直美さんがご出演された「TEDトーク」を観て、remindはできないけれど、映像を撮っておけば素敵なことを何度も観られるということに、本当に感動しました。それぞれの気持ちを素晴らしく伝えていただいて、たくさんの涙とたくさんの温かい気持ちに包まれながら、この映画を拝見しました。とても素敵でした。

映画は……写真もですが、その瞬間を切り取って、そこに物語を存在させます。でも私たちの人生は、物語通りにはいかないことがいっぱいある。けれど、それを観た人たちが自分の人生と重ね合わせて、そこから勇気や力をもらったり、「一歩進もう」と思ってもらったり……ということになればと思っています。私は映画のなかに、いつも「希望」を入れています。一見「とても悲しい映画なんじゃないか」「つらいものなんじゃないか」と思われますが、人生にはつらいこともある。でも、それを光に変えていくのは、私たち自身だと思うから。ジェーンさんもたくさんそういう経験をされていると思うんですよね。

河瀨直美

山野愛子ジェーン

本当にいろいろな経験を重ねて、こうやっていろいろな方たちと、理解し合えるようになったこともたくさんありますし、それをもっともっと、たくさんお話ししたいなと思っています。この映画のなかには、Real Life Storyも入っているということにも、とても感動しました。

そうなんです。写真に写ってくれた「特別養子縁組」をした家族たちが、実際に自分たちがその決断をしたときの様子を再現するように、この映画に登場してくれているんですね。そのシーンというのは、ものすごくドキュメンタリーっぽくて。フィクションの映画なのにリアリティがあるのは彼らのおかげです。彼らは嘘偽りなくそのときの感情に戻れる。なぜなら、その時間がものすごくしんどかったし、つらかった。だけど、新しい命を受け入れて一緒に暮らすことで未来をひらいていったという感じがあるので。

河瀨直美

山野愛子ジェーン

とっても素敵でした。特に今日は家族のみなさまにお会いし、撮影の様子をふたりで一緒に見て、ご家族のみなさまを笑わせたりしながら、素敵な笑顔を見られたのが感動的でした。

血が繋がっていないなんて思えないですよね。顔も似てくるし、本当の親子みたいに遠慮もない。こういう家族があっていいんだなと思います。日本は「本当の子どもじゃないとダメだ」という考え方が多いので、その考えのなかで苦しい思いをしている人たちがいます。計画をしないまま望まない妊娠をしてしまった女の人が、赤ちゃんを育てようと思っても育てることができない。そういうときにこの「特別養子縁組」という取り組みが、その女性たちに情報として伝わっていれば、何か新しい道がひらけたかもしれない。けれど、今の日本は、残念ながらまだまだこのことを知る人が少ないんです。それは悲しいことなので、この映画をきっかけに、たくさんの人たちにこういう新しい家族の形があるということを知ってほしいなと思っています。

河瀨直美

山野愛子ジェーン

No Bordersとして、差別をしないということはとても大切ですので、こうやって映画をとおして知らせていきたいですね。ぜひ期待したいですし、応援したいと思います。

ありがとうございます。先ほど山野愛子美容博物館を見てきましたが、おばあさまである初代山野愛子先生は、あの時代に女性が前に前にと出ていくとき、多くのハードルがあったと思うのです。そういうお話は聞いたりしていましたか?

河瀨直美

山野愛子ジェーン

そうですね。初代山野愛子先生は、美容業界のなかで若いほうだったんですね。それでひどくいじめられたとか。コンテスト大会のときには、必要なものを隠されたり──紐がないとか、ピンがないとか。でも、そういった道具がなくてもがんばって、優秀賞としてトロフィーを持って帰ったという話もあります。ですから、苦労のなかからはいいことも生まれてきますし、前向きにがんばると必ずいいことがありますというのは、よく聞いております。

やはり、とても苦労をしたり、状況がよくないときにこそ何か新しいものが生まれるということでしょうか。

河瀨直美

山野愛子ジェーン

そうですね。戦争中は鉄の製品がなくてパーマをかけられなかったのですが、三つ編みやタイトロープを考案して、機械がなくてもできるようにしたりですとか。帯枕がないから新聞紙で代用しましょうとか、ものがないなかでもできるように、と。私もそれを見習って、「SUPER BIDO」は0からレスリーと一緒に一生懸命やっています。

0からフリーペーパーを本気でやろうと思います。

Leslie Kee

山野愛子ジェーン

このプロジェクトをとおして、若い人たちにチャンス、夢、スタイルを伝えたいと思っています。この撮影では、大勢の学生もその機会を与えていただきました。レスリーと直美さん、ふたりのおかげです。ありがとうございます。

ここまでお話をうかがっていて、おふたりの共通点がわかってきました。直美さんは新しい道を作り続けていて、そこにはまさに、山野学苑で提唱している美しい道──美道という言葉がすごく見える。私はこの「SUPER BIDO」は、直美さんがやっていらっしゃる「なら国際映画祭」みたいだなと感じています。私たちは、自分のたちの力とネットワークを使って「SUPER BIDO」を作りたいと思っています。すごく美しいものを、コマーシャルではなく、アートだけを本気でやりたい。その想いは僕たちが共通しているものだから。ふたりのこれからのPlatform──なら国際映画祭と、山野学苑のHistoryと、僕たちのこれからの「SUPER BIDO」。創刊号には、このお話と14組の家族の写真も掲載して、お互いに、一緒に重ねていけたらいいなと思います。

Leslie Kee

河瀨直美

今の私たちに必要なのは、0を1にする力。1、2……という、すでにあるものや、ありすぎるもののなかから選ぶのではなく、「まったくない」というなかから1を生み出す力。それこそみんなが待っていることなんじゃないかなと思いました。

何もないところから作るというのは、本当にいちばん大事。このコロナの時代から感覚も変わったので、これからみなさん、少しだけでも考えてみたらいいなと思います。

Leslie Kee

河瀨直美

New Normalを作るのは、みんなです。

本当にありがとう。最後に、直美さんにとっての「美しい道」「美道」とは何ですか?

Leslie Kee

河瀨直美

私にとっての「美」は、ただそこにあるものです。それは、たとえば当たり前にある太陽だったり、地球の緑の美しさ、海の美しさだったりとか。それらはもしかしたら、人間の傲慢で壊れそうになっているかもしれない。でも私たちは、その「美」を、ある意味での謙虚さ──自分が生かされているということを喜びながら、相手をリスペクトすることで保ち続けられるんじゃないかなと思っています。国同士の争いや人と人との争い、分断をも乗り越えられるマインドは、ただそこにあるものを大切にすることから始まるのかなと思います。

素晴らしい!

Leslie Kee

山野愛子ジェーン

素晴らしいですね。ありがとうございます! 大ファンになりました(笑)。

感無量です。河瀨直美さん、Thank you! みなさん、ありがとうございます。これをご縁に、一緒に素晴らしいものを作りましょう。

Leslie Kee

河瀨直美

Kawase Naomi

生まれ育った奈良を拠点に映画を創り続ける。一貫した「リアリティ」の追求はドキュメンタリー、フィクションの域を越えて、カンヌ映画祭をはじめ、世界各国の映画祭での受賞多数。代表作は『萌の朱雀』『殯の森』『2つ目の窓』『あん』『光』など。世界に表現活動の場を広げながらも故郷奈良にて、9/18~9/22開催の「なら国際映画祭」で後進の育成にも力を入れる。東京2020オリンピック競技大会公式映画監督に就任。2025年大阪・関西万博のプロデューサー、シニアアドバイザー、ロゴマーク選考委員に就任。最新作『朝が来る』は、Cannes2020オフィシャルセレクションに選出され、10月23日より全国公開。映画監督の他、CM演出、エッセイ執筆などジャンルにこだわらず活動を続け、プライベートでは野菜やお米を作る一児の母。

朝が来る

河瀨直美×辻村深月

心揺さぶるヒューマンドラマの誕生。

世界で高い評価を受け、カンヌ国際映画祭では欠かせない存在となった河瀨直美監督の待望の最新作は、直木賞・本屋大賞受賞のベストセラー作家・辻村深月によるヒューマンミステリーの映画化。実の子を持てなかった夫婦と、実の子を育てることができなかった14歳の少女を繋ぐ「特別養子縁組」によって、新たに芽生える家族の美しい絆と胸を揺さぶる葛藤を描く。永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子ら実力派俳優が、人間の真実に踏み込む演技で圧倒する。血の繋がりか、魂の繋がりか─現代の日本社会が抱える問題を深く掘り下げ、家族とは何かに迫り、それでも最後に希望の光を届ける感動のヒューマンドラマが誕生。10/23ロードショー。

A new movie depicting the emotional conflict and beautiful bonds of new families united by adoption, “True Mothers” (Japanese title ‘Asa Ga Kuru’), will be released on October 23, 2020. As part a special collaboration project, Yamano Beauty College students did the hair and makeup, and renowned photographer Leslie Kee took portraits of these unique families. The following is a conversation between Leslie Kee, Film Director Naomi Kawase, and Chairman of Yamano Beauty College, Jane Aiko Yamano.

Leslie Kee

I really wanted to introduce these two powerful women to each other. I am so happy that I can support and connect them. Together, through beauty and film, we can show how wonderful Japan and this world can be.

Thank you so much for today. I am actually an adopted child myself and have never lived with my biological parents, so I believe that family is something you become, and bonds are actually something that you make. I have experienced this my whole life. I feel like today’s photo shoot will captures this beautiful moment in time between these adoptive parents and their children. It provides a valuable treasure that will last their entire lifetime. In my movies, I always add the theme of “hope.” I believe that we change hope into light. I am certain that Jane has had many experiences like that.

Naomi Kawase

Jane Yamano

Through various experiences, I believe we are able to understand situations from the viewpoints of other people. I would love to have more dialogue and gain a better understanding of their perspectives. This movie did just that and I was so touched by their real life stories.

While this story is fiction, the element of reality comes through because there are members of the cast who have actually adopted children. Since the adoption process is such a difficult and grueling experience for many in Japan, they were able to remember how they genuinely felt as they were going through the process. Your life completely changes as a new life enters yours. If pregnant women knew more about the adoption process, perhaps there would be more options for unwanted pregnancies. My hope is for people to realize that families come in a variety of forms.

Naomi Kawase

Jane Yamano

I hope that through this movie people can see the importance of having choices and options. I think your work is wonderful and I wish you all the best in spreading hope, love and beauty. One of the reasons we are doing this “SUPER BIDO” project is to give young people a chance and an opportunity to pursue their dreams.

I am so grateful to be a part of this project. In conclusion, I’d like to ask Naomi, what does “BIDO” (the way of beauty) mean to you?

Leslie Kee

Naomi Kawase

o me “beauty” is seeing things as they actually are. We often take it for granted that beauty is in the sun, within the green of the earth, and in the blue of the ocean. These things may be destroyed by the arrogance of humans. However, if we truly understand the meaning of beauty, we will then realize the joy of being able to live and let live with respect for one another. If we realize the importance of this mindset, I’m hopeful that feuds between countries wouldn’t even begin.

It would be wonderful if the beauty mindset you just described will instill peace and harmony among the diverse cultures and countries as we strive to create beauty in this world—TOGETHER.

Jane Yamano