「SUPER BIDO」の印象はどういったものでしたか?
Y
オファーをいただいた際、既刊の「SUPER BIDO」を見させていただいたのですが、「レスリーの作品」という印象が強かったんです。なので、打ち合わせのときに無理を言って、スタイリストとモデルはこちらで選ばせていただきました。既存のものも悪くないけれど、変化があったほうが飽きないと思うし、学生にかわいいと思ってもらえる、リアルなものをやりたかったので。ですから、この撮影の服は、いま本当に人気のものを使わせていただいています。
今回のテーマは「ICON」ですが、どういった考えで作品を作られましたか?
Y
ひとりのモデルさんを使って、七変化のようなことをしようと考えました。「ロココ」「フェティッシュ」「ホラー」「パンク」「ボヘミアン」、そして「ナチュラル」という6つをテーマにしています。それぞれのアイコニックな女性を作った感じですね。全然違うほうが見ていておもしろいし、飽きないので、メリハリも意識しました。
6つの作品はそれぞれ別のモデルさんのように見えますものね。ところで、奈良さんが美容師を目指した理由やきっかけはどんなことでしょう。
Y
もともと高校も油絵で入ったので、美大に行くか洋服──ファッションとか華やかな世界が好きだったので、ファッションに行くか、それともビューティーのほうに行こうか迷ったのですが、「美大は絵が売れなかったら暮らしていけないだろうな」「洋服は好きだけれど、衣装を作ったりするのはちょっと難しいな」と考えて、最終的に美容かなと。母親が若い頃に少しだけ美容師をやっていて髪を切ってくれたりもしたので、普通の人よりは少し美容が身近な世界だったのかもしれません。それで美容学校に入ったんですが、実は、YAMANOは落ちたんです。ジェーン先生に「YAMANO落ちたんですけど」って言ったら「嘘でしょう!?」と言われました(笑)。
そんなことがあったのですね! 美容専門学校を卒業後、数あるサロンのなかからSHIMAを選ばれた理由はなんですか?
Y
美容学生のときに、雑誌などでヘアモデルをしていたんです。いろいろなサロンの方に声をかけられて髪を切ってもらい、撮影をしてもらう経験ができました。そのなかで、僕のなかではダントツにSHIMAがかっこよかったんです。モードさとオシャレ感がすごくあって、ほかのサロンより一歩抜けている感じ。ファッションに対していちばん身近なサロンだと感じて選びました。
いま、第一線でご活躍されていますが、お仕事の楽しみややりがいはどういったことですか?
Y
今日はやりがいがありましたよ! 2021年に入ってからは撮影も増えましたが、コロナ禍の影響で大掛かりな撮影は久しぶりでしたし、撮影の日時がなかなか決まらなかったこともあります。すごく急いでやりましたから、もう少し作りこみたかったところもありますが。
逆に、お仕事をしていてつらいことや厳しいことはありますか?
Y
連続で何本も仕事が入ってしまうと「あああ……」となります。でも忙しいのも好きで、意外とこなしてしまうから、大丈夫かもしれません。もともと好きなことだからというのもあります。髪を作って、着せ替え人形みたいな感じで楽しいじゃないですか。かわいいモデルで、テンションも上がりますし。
さまざまなモデルさん、タレントさん、俳優・女優さん、さらにはレディーガガなど海外のセレブリティともお仕事をされていますが、ヘアメイクアップアーティストとしてお仕事をされるようになったきっかけはありますか?
Y
僕はもともとヘアメイクもやりたかったんです。でも、入社前に雑誌でフィーチャーされてしまっていたので、SHIMAに入ってシャンプー台に立ったとき、名前だけが先行してしまっていて、すごくプレッシャーがありました。そのとき、スタイリストになって売り上げ1位になれば、たぶん誰も何も言わないと思ったんです。とりあえずサロンで売り上げを上げて、周りに何も言われないようになろうと、当時は死ぬ気でがんばりました。
SHIMAはヘアメイクを推進しているサロンではないので、サロンワークがメインの美容師のほうがいいんです。なので、売り上げでずっと1位だった人が「ヘアメイクの方向に行く」と言ったら「おいおいおい」となるわけで……。でも、ちょうど30歳くらいの頃に「そろそろヘアメイクもやりたい」と伝えて、それから少しずついろいろな活動をやり始めた感じです。いまはもう、ほとんど自由にやらせてもらえています。
それも長い間積み重ねてきた実績があったからこそですね。サロンでのお仕事や雑誌社とのお付き合いのなかから、ヘアメイクアップアーティストとしての人脈が増えていったという感じですか?
Y
そうですね。あとは、プライベートで遊ぶ友達がカメラマンやスタイリスト、デザイナー、モデルが多かったので、自分で仕事を取ってくる感じでした。
とはいえ、ヘアメイクの仕事をするための早道は、好きな雑誌などを見て、「かわいい」と思った作品のクレジットに載っている人に弟子入りするのがいちばんじゃないでしょうか。SHIMAにもメイクレッスンはありましたが、僕はヘアメイクの師匠がいないんです。ヘアショーや作品の撮影で学んでいく感じでした。SHIMAにも先輩はいますが、その先輩たちもそうやって学んでいたので。だから、メイクは独学に近いですし、まだまだ勉強。がんばります。
第一線で活躍するために、日頃からこころがけていることはありますか?
Y
初心の気持ちを忘れず、自分に奢らず、いつも新鮮な気持ちで現場に立ちたいなと思っています。たまにだらけちゃうので、自分を奮い立たせてなんとかやっています。
今後、奈良さんご自身の目標や夢のようなものはありますか?
Y
いろいろなお仕事をさせてもらっているのですが、さらにもっといろいろなことをやっていきたいなと思っています。美容の垣根を超えて、クリエイターの方たちと何かをやっていきたいな、と。たとえば、若いアーティストやデザイナーを支援するアートスペースのような場所を提供できたらと考えています。若い子たちが集まる溜まり場のような場所が少なくなってきていますが、リアルな交流の場がないと、つまらないと思うんです。自分もそういう場所で育ってきましたから。人と人が会って、見て、感じることは、やっぱり大事。その経験を自分なりに落とし込んで表現できるようにならないと、いいものやオリジナリティのあるのものは作れないと思います。たとえばモデルさんも、写真で見たときのスタイルと実物とでは、全然違う。どうやって作っていくかは、現場にいてリアルに目で見て感じるのがいちばんです。
次世代への“たすき”のようなことも考えてくださっているのですね。最後に、美容業界を志す若い人たちへのアドバイスやエールをお聞かせください。
Y
美容学校を卒業したら、スタイリストになるまではがんばってほしいなと思います。理想と現実は違うと思いますが、そこでいかに自分自身で毎日を楽しくしていくか。最初はシャンプーとか地味な仕事ばかりなので、自分から楽しく仕事をしようとしないと、楽しいことなんてやってこない。嫌なことがあったり、くじけそうになったとき、僕はバックヤードで仲間たちとすごいふざけたりしていましたね。それだけでも気が晴れるから。自分が周りを巻き込んで楽しくさせられるようになると、周りからの見られ方も、自分自身の見方も変わります。それがいちばん長く、やめずにいられるコツかなと思いますね。
また、いまの時代は「美容師」という枠にとらわれなくてもいいとも思います。髪もメイクも服も総合的に見られるトータルビューティーの時代ですし、僕も早くからそれを意識してやってきました。髪だけでなく、「ひとりの女性を創り上げる」ということですね。そういうスタンスでいたら、ひとつぐらい自分の得意分野があるかもしれないですし、「こういう関わり方もあるんだ」と気づくこともあるかもしれません。いまは、美容にまつわることでもたくさんあるので、型にはまらなくていいと思います。
いまを感じる多彩な作品と、楽しいお話をありがとうございました。
奈良 裕也
Yuya Nara
SHIMA HARAJUKU アートディレクター / ヘアメイク
サロンワークをベースにファッション誌、業界誌やHAIR SHOWの他、ヘア&メイクアップアーティストとして海外のアーティストやセレブを手掛け、カタログやコレクション等でも活躍中。また自身も東京のファッションアイコン的存在で撮影に参加するなど活動は多岐にわたる。