Love for the hair

今泉亮爾さん Ryoji Imaizumi

今回の作品コンセプトは「Love is Timeless」ということですが、どんな想いが込められていますか。

みんなが持っている自分のイメージは、モノを載っけたり、ちょっと変わった、奇抜なことをやるというもの。モノを使った作品は面白いですし、自分も好きで、これまでいろいろとやってきました。ヘアだけというのは難しいですし、ある程度いくとやはり限界があるんです。でも、自分は「ヘアスタイリスト」という肩書きで始めたので、原点に戻ってヘアでチャレンジしてみたいなと。ですから、今回はチャンスだなと思いました。

ヘアだけでやるルックというのは、古くならないんです。自分は昔からよく、「リョウジくんのヘアって、10年前にやったのを見ても、今でもかっこいいよね」と言われるんですが、それこそが「Timeless」なのかなと思って。永遠の作品になるというか……。ヘアでつくるTimelessなデザイン、それも、今までやったことがないことにチャレンジするというのが、今回のポイントかなと思いました。プラス、クラシックにも見えるんだけど、不思議な感じがするもの。それがヘアデザインの魅力なのかなと。だから、メイクはあえてモデルを生かしたものにしています。

今回の作品では、地毛にウィッグも混ぜて表現していますが、自分はヘアデザインをするとき、たとえモノをつけるにしても、絶対に馴染んでいたいんですよ。これは、いつもいちばん気をつけていることです。自分のなかでの絶対のプライドというか、守っていきたいところで、そこだけはどうしても妥協したくない。そうでなければ、プロのヘアアーティストとは言えないんじゃないかと思っています。

自分は、最初はNY、その後パリ、またNYと、23〜24年海外で生活して、しかもパリでデビューしているので、ずっと外国の人と一緒に仕事をしてきました。パリコレやNYコレクション、海外版VOGUEの撮影など、世界のいろいろな場所で仕事をして、見てきているんですが、そういったところでは、クラシックというか、“絶対美しい”という要素があるんですよ。そこまでいかないと、「ダメだね」となるので、その要素は必ずないといけないんです。だから、面白いことをやるにしても、クラシックなものもできないといけないと思います。いろいろなことを全部マスターして、究極のところまできたうえで「次は異素材かな」と。そして「その次に何か」といったら、また原点なんです。そんなふうに行ったり来たりするのかなと思っています。

これまでのご経歴についておうかがいします。16歳で渡米されて、向こうの学校に行かれたということですが、なぜ海外に出られたのでしょうか。

高校生のときに渡米したのですが、当時は先生の暴力などもあったりして、日本の学校とは合わないなと思っていたんです。それで高校を中退したんですが、両親はせめて高校くらい卒業して欲しかったみたいで(笑)。それまで海外旅行とかに連れていってくれていたこともあり、高校くらいは……という両親の思いもありで、「アメリカの高校に入れるよ」ということになったとき、「面白そうだね」と。それで渡米したんです。

当時から、ずっとアメリカにいるのかなという思いがあったので、現地の「Arizona beauty college」を卒業しました。両親は、NYで修業して技術を身につけて、日本でヘアサロンを開くつもりだったんですが、自分は日本に帰って美容師をやろうとは、まったく思わなかったですね。また、当時はヘアアーティストになるなんて、夢にも思っていませんでした。そんな職業があるなんて、想像もしていなかったんです。美容師、カッターというイメージしかありませんでした。

でもNYで「Bumble and bumble」というサロンに行ったとき、「editorial fashion stylist」という存在を知ったんです。彼らはサロンにはまったくこないんですが、たとえば雑誌をやったとき、marie claire誌ならば「marie claire for Bumble and bumble」というようにクレジットされる、サロン付きのヘアアーティスト。「Bumble and bumble」で雇っていたのが、自分の師匠のLaurent Philipponという人で、当時はLaurentだけでなく、Eugene Souleimanというすごい人がいたり……そういう人たちのファッション撮影のお手伝いに行って、彼らの仕事を見て、「この仕事かっこいい!」「俺、本当はこれがやりたいんだ!!」と。

日本だとヘアメイクの両方をやる人がいますね。向こうはヘアとメイクが完全に分かれているので、自分はメイクはできません。自分のようなスタイルで仕事をしている先輩と、昔から「メイクとヘアはどっちが難しいか」という話をするんですが、どっちの難しさもあります。ただ、技術をざっくり覚えるのに、ヘアは5年かかるんです。メイクは2年で、ネイルは1年とか。ヘアはそれくらい技術が多様で、学ばないといけない部分があるんじゃないかなと思います。

日米仏と世界の美容をご存知ですが、この3カ国での違いはありますか。

仕事ではどこでも究極なものを求められるんですが、全体的な流れとしては、パリのほうがNYよりナチュラルな気がします。アメリカは「バリッ!!」としている(笑)。たとえばリップを塗るなら、唇の縁を塗っちゃう、みたいな。そのゴリッとした強さは、パリとは違います。パリはもうちょっとナチュラルで、落ち着いた、シックな感じ。

これはやはり、人の違いだと思います。街を歩いているちょっとイケてる女の子を見ていると、だいたいその街の雰囲気がわかる気がします。アメリカは強い感じで、パリは人それぞれの個人差を生かしているというか。だから、パリには日本人が好きな、憧れやすい部分があるかもしれないですね。アメリカにも素晴らしいものがいっぱいありますが、同じように真似ても、日本人はうまくいかないですから。

でも、どちらにもいい分と悪い分がたくさんあります。各国でいろいろなものがあって、そこにないものが自分は好きなのかな。日本も含めて3カ国、全部違いますし、どれがいいと言うのは難しい。それぞれですね。

日本はどういった印象でしょうか。

日本では、今はウエットヘアとかが流行っていますよね。自分はあまりプロダクトを使わないんですが、やっといろいろプロダクトを使い出したな、と思いました。あとは、美容師のなかにはカラーやカットなどでパンチのあることをする人もいますが、一般の人はコンサバティブ。みんなの意識が、「周りよりもちょっとおしゃれでいたい」という印象で、日本には個性を生かすような環境があまりないのかなと感じます。個性が強いと、日本ではけっこう生きにくいんですよ。自分がそうなのでよくわかります。支持される人からは圧倒的な支持を受けますが、それを嫌いな人もいる。でも、自分は突き通すべきと思っているから、気にしません。色があるって、そういうことなので。

日本の人は、そういうことをそこまで割り切っていないのかなって思うんです。みんなにいいと思われたい。それがスタイルに出てくると思います。スタイルも生き方の延長線上にあるので、生き方にも表れてくるのではと感じています。

それら日本の風潮も踏まえて、美容業界を目指している若い人に、エールをいただけますか。

若いときって、やってみるしかないんです。そして、もし可能なら、「その人になりたい!」というくらいの憧れの人の近くにいるといいですね。いい環境でいいアーティストが周りにいると、影響を受けますから。そこで10年続けていたら、たぶん、その憧れの人と一緒に仕事をしていますよ。あとは、続けることです。「継続は力なり」と言うように、続けられない人、飽きやすい人には限界があります。限界を突破するには、限界を超えるような努力をしなければいけないので。

でも結局は、いろいろなことに、なんでもトライしたほうがいいと思います。「自分とは何か」というのを見つめ直して、自分に何が合うのか、興味があればなんでも経験してみる。トライするのは、美容にかかわらず、なんだっていい。だって、美容だけじゃ面白くないですよ。もちろん最初のうちはファッションやフォトグラフィーを勉強していくでしょうけれど、結局は自分の好きなことがインスピレーションになります。危ないことでなく、それが自分の糧になるのであれば、何に興味を持ってもいい。英語も話せたほうがいいですし、海外にも出たらいいと思います。今はちょっと行きにくくなっていますが、いろいろな世界のものを見て欲しいです。美容道具もプロダクトも違うし、何を見ても面白い。もちろん食もです。自分は料理が好きで、イタリア人のようにパスタを作って食べたいので、よく作っています。だから、なんにでも興味を持ってやっていくのがベストだと思います。

素晴らしい作品と、奥深いお話をありがとうございました。

「SUPER BIDO」は、初代山野愛子が提唱した「美道5大原則」の理念にのっとり、美容の理論と実践を通して、変わりゆく多様な文化の足跡を残すべく立ち上げたプロジェクトです。世界で活躍するアーティスト、山野学苑OBや在校生の作品のほか、同学苑で行っているさまざまな取り組みをご紹介しています。また、各界で輝くさまざまな人々を「美容」というキーワードで繋ぎ、盛り立てていくことで、美容業界の発展に貢献することを目的としております。

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