少女のような無垢さと女王のような気品、人々の心を震わせる歌声と、会話から滲み出る知性──。女優、歌手、木版画家と多彩な才能を見せてくださっているジュディ・オングさんは、11歳のデビューからずっと変わらぬ輝きを放っています。感動的とさえいえる美しさの秘訣はどこにあるのでしょう。
J
身体的な面では、昔から気功と、いまはピラティスを。体を伸ばしてインナーマッスルを鍛えています。また、中国に劉海粟(リュウハイスゥ)という有名な文人がいまして、98歳まで生きた非常にご長命な方だったんですね。その方が96歳のときに書いた詩に「餐々七分飽 事事対人好 為善最快楽 健康活到老」というものがあります。
「腹八分目に医者いらず」と言いますけれど、八分食べたからもうやめようというときにはだいたい九分食べているものです。「餐々七分飽」は、「七分食べたらまず満足しよう」という意味で、とても体にいいことなんですね。と同時に「7割できたらまず満足しよう」という意味も含まれているそうです。「事事対人好」とは「ことごとく人に対して好ましくいよう」。苦手な人のことは気に入らないところばかりが見えてしまいますよね。でも、空を飛ぶ鳥の目から見たら、気に入らないところは小さな点ひとつだけかもしれない。ほかにあるいいところを見て上手に距離を取れば、相手もそのくらいの距離で付き合うので、お互いにいいの。次の「為善最快楽」は「善の為に尽くすことは、最高の快楽である」ということ。善を尽くすということは、無償の愛、見返りなしの行為です。目の前で誰かが転んだら、起こしてあげようとなりますね。それで、相手に「ありがとう」と言われたら、その日1日爽やかな気持ちになります。その精神が、臓器を非常によくしてくれる。この3つを守っていれば、健康に歳を重ねることができるというのが4句目の「健康活到老」です。年齢は重ねるごとによくなると考えること。智慧をたくさん持ち、夢も持っていればいいんですよ。人間は夢がなくなったときに老いますが、夢や目標がある人は、ただ素敵に歳を重ねただけなんですね。この詩は父から教わったのですが、先人に学んだことです。
人生の叡智がつまった漢詩をさらりと口にされるジュディさん。この知性が彼女をより魅力的にしているのでしょう。心身の健康を重視されているジュディさんですが、「美道五大原則」にある「精神美・健康美」についてはどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。
J
健康美とは、まったくそのとおりの言葉ですよね。悩みのなかには怒りとか羨むというマイナスパワーが入っています。怒っていたり泣いていたり、悲しんでいるとき──とくに羨んでいるときは、内臓がグッと硬くなり、あまり消化器がよくないんですね。それで、顔色が暗くなります。幸せなときのたとえで「頬をピンクに染める」というものがありますが、これはいいアドレナリンが流れている精神状態のとき、そこに美があらわれるからです。だから、精神美と健康美はひとつのもの。視線ひとつでも、下を見ているのと、少し上を見ているのとでは、後者のほうが明るく見えますでしょ。そして、いいことを考えるときは上を見上げながら考える。だから、希望的観測を持ってよく笑うことです。笑顔には笑顔が戻るんですよ。お互いに努力して笑顔でいれば、内臓がよくなるの。いい気を放っていると、必ずいい気が戻ってくる。みんながそれを求めているのですから、まずは自分がやればいいんです。できないときは「あ、できなかった」と思って、そこからまたやればいいの。自分がしていれば、隣の人も同じように思うものだし、そのふたりがそうなると、和が広がっていきますね。ひとりひとりが思えば、やがて全体がそうなるんですよ。
華やかな笑顔のジュディさんの前では、たしかにこちらも笑顔になってしまいます。ジュディさんは木版画家としても活躍されており、日展では特選を受賞されたほど。大師匠にあたる世界的巨匠・棟方志功を彷彿させる力強い線、繊細で優雅な彫り、コントラストが美しい色使いの作品は、見る者を”ジュディ・ワールド”に引き込みます。芸術作品を生み出す審美眼は、どのようにして磨かれているのでしょうか。
J
なんにでも好奇心をもって見ることだと思いますね。たとえば菖蒲園に行ったとき、好奇心を持って見ていると、「私を描いて」という菖蒲が絶対にいるんです。そして、その菖蒲に添えられる花もたいてい綺麗。同じように、毎日の生活のなかで、必ずハッとするものがあるはずなんですね。そのハッとしたものを見逃さないこと。「これは私の感じだわ」と思う回数が多くなると、見逃さなくなります。日展で特選をいただいた作品は、名古屋にあった稲本という料亭を描いているのですが、そこを訪れたとき、一目惚れのように釘付けになったんです。そのように、1度見て忘れられないものは、やはりいい作品を生んでくれます。
ジュディさんのように好奇心を持って日々を過ごしていれば、たくさんのときめく出会いに巡り会い、審美眼も磨かれてくるのでしょう。木版画はライフワークとおっしゃるジュディさんですが、ほかにもたくさん夢をお持ちだとか。
J
夢が多くて時間が足りないんです。私には犬がおりましてね、毎日レポートを書いているの。それを細かく書いていると、どういうふうに成長してきたかがわかる。その経験から、犬の目をとおした小説を書きたいなと思っています。いま犬を飼っている方にも、わかっていないことが多いと思うんですよ。粗相をしたときは、叱っちゃいけないんです。なにごともなかったように片付ける。最初はいっぱいシートを敷いて、ちゃんとできたときにはご褒美を。だんだんシートを減らしていくときには、ちゃんとその子に伝えて、見ている前で片して、ということをしなくてはいけないんだと思います。それを「ママがシートを畳んでいるから、あそこにはもうないんだ」というように犬の目から表現していけば、「あ、そう思っているんだ」って思いますでしょう? 写真はたくさんありますので、そんな本を面白おかしく書こうかなと思っているんです。
そして目標は、歳を重ねていくにつれて、人生をシンプルにしていくこと。そうすることによって、自分のやりたいこと──小説を書くなどに集中することができるのでね。